ついに自殺者が! さいたま市で横行する過酷な税の取り立て

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闇金から借りて払え!」「この愚民ども!」響き渡る罵声。

さいたま市では、市役所隣にあるときわ会館地下の債権回収課に滞納者を呼び出し、返済を強要。応じなければ、預金や給与を差し押さえる。同市で17年間、高い税金や滞納に悩む人たちの相談に乗ってきた荒川常男さん(さいたま市社会保障推進協議会会長・浦和民商副会長)から話を伺った。

 

 税金の取り立てを苦に、2016年2人が自殺しました。1人は滞納額の一括返済を迫られ自己破産、もう1人は売上金を差し押さえられ、絶望して自殺に追い込まれました。他にも、月収20万円の世帯なのに同額の支払いを強要されたり、職員が身内や勤務先に電話して滞納を知られてしまったりと、ひどいことが行われています。

 もっとも、最初からこんなふうだったわけではありません。さいたま市が発足してしばらくの間、滞納は行政区が取り扱い、やり方も穏やかでした。例えば、滞納額の半額を払えば延滞税を免除したり、あるいは月数千円程度と支払い可能な範囲で分納を認めるなど、滞納者の事情を考慮した対応をしていました。

 しかし2011年4月市は財政局の下に債権整理対策室を設置、14年4月には部に格上げして、滞納事案を債権整理対策部債権回収課に集約。対策室が発足し、安倍政権になってからはそれまでと一変、職員の暴言や無茶な取り立て、差し押さえが横行するようになりました。

 

  • 低所得なのに高すぎる国保

 「税金を払うのは市民の義務。滞納者が悪い」と思われるでしょう。しかし、支払いが困難な事情があります。

 滞納する税のうち多いのは国民健康保険税で、自己負担額が高いことで知られています。加入者1世帯当たりの平均所得は138万8000円ですが、1世帯当たりの保険料(税)は14万2908円で、所得の1割を超えています(平成28年国民健康保険実態調査)。しかも、所得は年々減少、保険料(税)の割合は増える傾向にあります。

 国保税が高い理由の一つは、国が国保の運営に対して税金を投入しなくなったからです。国保総収入に対する国庫支出金の割合は、1980年代は50%を占めていましたが削減が続き、今では25%程度に減少しています。

 一方、滞納者の家計を見てみると、さいたま市国保税滞納世帯の場合、その8割は所得200万円未満の低所得者です。

 国保はもともと農業者や自営業者が対象でしたが、1990年代バブル経済崩壊後は雇用情勢が不安定になり、無年金・低年金者、無職者、非正規職、中小零細規模の自営業者が増えました。自営業では、不況により経営が悪化し、自転車操業を続けている人が多く、生きるために滞納せざるを得なかったケースがほとんどです。

 細々と生活が成り立つ範囲で滞納税を払っている人たちに、増額や一括返済を要求する。払いたくても払えない人から搾り取ろうとしているのが実態なのです。

 

  • 全国で起こる強硬な取り立て

 現在債権回収課には36人の職員がおり、1人当たり3000~5000件を担当。徴収件数にノルマがあり、人事にも影響するようです。これではどうしても機械的な対応になってしまいます。

 私たちさいたま市社会保障推進協議会では、滞納処分問題について市に何度も申し入れを行い、改善を強く求めてきました。すると、市の対応にもわずかながら変化が見られるようになりました。8月20日の交渉では、市の担当者は職員の暴言に対して「事実かどうか確認できない」としながらも、「こういう形の感情(怒りや悲しみなど)を抱かせたことを真摯に受け止め、改善していきたい」と述べました。

 私たちが粘り強く運動を展開したことで、さいたま市の実態が明るみに出ました。しかし、税金の強硬な取り立ては全国の自治体で起こっており、群馬県前橋市でも問題になっています。さいたま市だけが特にひどいというわけではないのです。

 貧困が解消されない今、滞納は誰でも陥る問題です。高額な税金や滞納に苦しんでいたら、一人で悩まずに相談してください。また、あなたの周囲に悩んでいる方がいたら、解決方法があることを知らせください。

連絡先:浦和民商 電話048(886)5200

 

■市民の声 職員の暴言、悪質な対応に苦情多数

 

・月々返済していたが、増額か一括返済を迫られた。「払わなければ差し押さえる」と、大声で恫喝された。

*同様のケースは複数あり、自宅のローンがあるので無理と答えると、「家のローンより税金が先。自己破産して払え」「家を売って払え」と言われた人もいた。

 

・職員との話し合いに際して、「議員や弁護士を連れてきたら差し押さえる」と言われた。やり取りを家族に報告するため録音の許可を求めると、「録音して弁護士して裁判とか言うのがいる。同意するわけがない」と断られた。

 

・数々の暴言。

「これ以上遅延すると口座を差し押さえる、職場に電話を入れるぞ」

闇金なら返済しなくて済む。闇金から借りて一括返済しろ」

「もっと家賃の安いところへ引っ越せ。引っ越し費用がないなら、今の部屋を解約して家具を処分しろ。新しく借りなければ、家賃水光熱費をO円にできるから、25万円納付できる。今すぐやれ!」

「家族の死亡保険金で一括返済しろ」

「どうせ仮病だろ? 滞納しているくせに病気で働けないと嘘をつくな」

「治療に払う金があるならその分納付するのが常識。通院したら差し押さえ」

「滞納者は死んでもいいから働け」

「働けないなら、食事を1週間に1度にしろ」

 

・5年以上前の未納分の請求書が届いた。その間督促状を受け取った覚えはない。今回初めて延滞金が加算されることを知り、途方に暮れている。市役所では「督促状を出した」の一点張り。

 

・滞納について相談したいが、電話がつながらない。1日100回以上かけても話し中。やっと呼び出し音が鳴っても出ない。

 

*市民や職員の発言は、さいたま市が市民から寄せられた意見、要望、提案などに対する回答用の文書に記載(約20通。2013年~2017年)。「反貧困ネットワーク埼玉」がさいたま市に情報公開請求して開示されたもの。これらの文書を抜粋、要約した。

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*これは、さいたま市で発行しているミニコミ誌「市民じゃ~なる」に寄稿した記事を加筆・訂正したものです。