沖縄ヘイトデマ番組「ニュース女子」問題。 東京MXテレビが辛淑玉さんに謝罪。 辛さんはDHCテレビと長谷川幸洋氏を提訴へ。

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東京MXテレビ辛淑玉さんに謝罪


 東京MXテレビが放送した情報番組「ニュース女子」で名誉を傷つけられたと抗議していた、人権団体「のりこえねっと」の共同代表・辛淑玉さんが東京都内で記者会見し、2018年7月20日、伊達寛社長が辛さんに謝罪したことを明らかにしました。

 問題の番組は2017年1月2日放送されたもので、化粧品大手DHCの子会社DHCテレビジョンが制作。沖縄県東村高江の米軍ヘリパッド建設に対する抗議行動を取り上げています。抗議行動に参加する人たちを「テロリストみたい」、「日当5万円をもらっている」などと評したうえ、資金を供与している黒幕的存在として辛さんの名前と在日朝鮮人であることを挙げ、辛さんの名誉を著しく傷つけました。
 もちろん、番組に対しては、放送直後から批判が寄せられました。しかし、1週間後の9日、東京MXテレビは「何も問題ない」と出演者に語らせ、何の対応もしませんでした。
 この放送がきっかけとなり、辛さんのところに嫌がらせが相次ぎ、ドイツに亡命せざるを得なくなったことは、多くのメディアで報道されました。ご存知の方も多いでしょう。20日、辛さんはドイツから来日して、会見に臨みました。

 

・「ニュース女子」の問題点について。沖縄への放送をあおる市民有志
https://nonewsjoshi.jimdofree.com/

・放送後、BPOに申し立て。放送倫理検証委員会では放送内容に問題ありとみなし、2月1日審議入り決定。12月14日「重大な放送倫理違反があった」とし、意見書を公表した。
https://www.bpo.gr.jp/?p=9335&meta_key=2017

・辛さん個人の人権侵害については、2018年3月8日放送人権委員会は「名誉棄損の人権侵害が成立する」との判断を下し、東京MXテレビに対して勧告を行った。
https://www.bpo.gr.jp/?page_id=1129&meta_key=2017

 

東京MXテレビの謝罪文>
2017年1月2日及び1月9日放送の「ニュース女子」における辛淑玉様に 関する放送について、2018年3月8日付け放送倫理・番組向上機構・放送と人権等権利に関する委員会の当社に対する勧告において、同放送は、辛淑玉様が 過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的に行う人物でその黒幕である、過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出しているとの事実を摘示するものであり、その内容は真実性に欠け、辛淑玉様の名誉を毀損するものであると判断され、また、辛淑玉様の国籍・民族を明示して、過激で犯罪行為を繰り返すものと描かれた沖縄県の基地反対運動と結びつけて論じたことは、人種や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いたものであったと言わざるを得ないとの指摘を受けました。当社は、上記のとおり名誉毀損と判断された事実摘示や人種・民族に関する配慮を欠いた表現を含む当番組を放送したことについて真摯に反省し、社内で策定しました再発防止策を推進するとともに、当番組の放送によって辛淑玉様 を深く傷付けたことを深く反省し、お詫びいたします。
7月20日

東京メトロポリタンテレビジョン
代表取締役会長 後藤 亘
代表取締役社長 伊達 寛
https://s.mxtv.jp/company/press/pdf/press2018_370001.pdf

 

●不十分な謝罪内容

 今回の謝罪は辛さん個人に対してのみ行われました。沖縄や抗議活動に従事する人たちを虚偽事実で貶めたことに対してはなされていません。

 辛さん側も、これでは不十分と評価しています。謝罪に当たり、辛さん側は「のりこえねっとで制作した番組を東京MXテレビで流すこと。それが無理であれば、この番組について検証する番組をつくってほしい」と要求しました。しかし、いずれも拒否されたそうです。

  肝心の謝罪の内容についても、満足のいくものではありませんでした。たしかに、辛さんが日当の5万円を出していたことはデマと認めました。しかし、「黒幕的存在」として辛さんの国籍・民族名を出して、抗議活動(テロリストみたい)を結び付けたことの差別性について、まったく触れていません。

 辛さんの代理人は次のように語ります。

 

 金竜介弁護士
「番組では辛さんのことを韓国人と紹介しました。たしかに、それは事実です。しかし、抗議行動を批判していて、その黒幕とされているところで、出自を出す必要があるのか。では、ゲイや被差別部落出身者であれば、それをわざわざ出すのか。出自を出したことについて何も応えていません」

 

 神原元弁護士
「東京MX側は『人種人や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いた~』としていますが、まったく違います。この番組では、人種・民族差別を扇動しました。2016年反ヘイトスピーチ法が成立しましたが、その後につくられた番組です。これがヘイトスピーチであることの認識がなかったわけです」

 ちなみに、神原弁護士は今回辛さんがターゲットになったのは、「民族的マイノリティであることに加え、女性だから。つまり複合差別」と指摘します。

 今回は、謝罪の内容は不十分なものの「東京MXテレビ側が謝罪をしたいというので受け入れた」と、というのが実情なのです。

 

DHCテレビ長谷川幸洋氏を提訴

 辛さんは「私だけが謝罪を受けることに、ものすごい葛藤があった」と語ります。しかも、その内容は不十分です。それなのに、なぜ謝罪を受け入れたのか?  それは「映像は世界中に拡散されている。この状況を何年も放置できないと思いました。本丸はDHCテレビ。何らかの悪意をもってやったこと。ここでMXが詫びを入れてくれたのだから、次の闘いに移ります」(辛さん)

 DHCテレビでは問題の番組をインターネット上でをまだ流しつづけています。ネットで検索すると、それほど苦労なく探し当てることができ、閲覧もできます。東京MXテレビが人権侵害と認めた内容、デマを堂々と拡散しているのです。
 DHC会長の手記を読むと、BPOの勧告に対して、「委員のほとんどが反日、左翼という極端に偏った組織に『善悪・正邪』の判断などできるでしょうか」と反省するどころか開き直り、ヘイト臭に満ちた自論を展開しています。
https://ironna.jp/article/9559?p=1

 こんな状況を打開するために、辛さん自身が原告となり、DHCテレビと同番組で司会を務めていた長谷川幸洋氏に対して、損害賠償と問題の番組の差し止めを求めて提訴する意向を明らかにしました。

 

辛淑玉さん 記者会見全文

 記者会見中、辛さんは、沈痛な面持ちで、淡々としつつも時には涙で言葉を詰まらせながら、時には高ぶりそうな感情を押し殺そうとしながら、この番組がいかに差別的でマイノリティを傷つける内容かを語りました。その言葉は、そのまま私に突き刺さりました。それは、日本は「日本には日本人しかいない」と信じて疑わない人たちによってつくられていることを、痛いほど感じさせる内容でした。
 この会見の発言は、番組への批判を超えて、マイノリティを周辺へと追いやって抑圧し、見て見ぬふりをしてきた日本社会への鋭い批判となっています。辛さんはドイツへ逃げなければ、身の安全を確保できなかった。それほどの危険性を感じました。日本社会は、モノを言うマイノリティの女性をターゲットにしていじめにいじめ抜き、ついには追い出してしまう。この訴えに、日本人は耳を傾ける必要があります。

 

 私はこの裁判を、DHCテレビとの裁判を支援しようと決めました。それがせめてもの、日本人として私のできることだと思っています。

 

注:メモ書きであるため、必ずしも正しい文章ではありませんが、趣旨は変えておりません。読みやすいように、見出しや言葉を補足しました。

 

●放送事故ではない、事件。抵抗できない者にレッテルを貼ってつるし上げる

 今日この日を迎えるにあたって、MXテレビ前での抗議活動に参加された人にお礼申し上げます。暑い日も寒い日も、抗議活動を行ってくれた人たちがいました。みんなの闘いがなかったら、ここにたどり着けていませんでした。一緒に闘ってくれて、どうもありがとう。

 これは放送事故ではない、事件です。私の出自(朝鮮ルーツ)を使ってデマを流して、運動を叩きました。1つのシンボルを使ってマイノリティを叩く。その先にあるのはジェノサイド(大虐殺)です。かつてのドイツではユダヤ人は虱。それと同じように、朝鮮人はゴキブリ。ウチナンチュは土人、そして基地の外と書いて「きちがい」。抵抗できない者にレッテルを貼ってつるし上げる。それがどんなに怖いことか。しかし、東京MXテレビを含めて、まだそれを理解していないと思っています。

 私は東京MXの謝罪を受けましたが、受けるにあたってものごい葛藤がありました。言葉にならないほどの葛藤がありました。自分だけ謝罪を受けるのは、卑怯なのではないか。受け入れるのは厳しいものがありました。
 戦後補償裁判において、在日は様々な補償から外されました。長い間在日に抑圧を強いる日本人の背中を見てきた者として、つらい思いをしました。
 しかし、今度は自分がそれを実行する、自分だけが謝罪を受ける立場になりました。沖縄、アイヌ被差別部落、社会にとって障害になる人たちはヘイトの嵐の中にいます。
 反ヘイト法ができたとき、とてもうれしかったです。有田議員をはじめたくさんの人たちが尽力してくれました。でも、本邦外出身ということで沖縄は外されました。自分が一緒にいたい人たちが反ヘイト法から外されるのは、受け入れられませんでした。
 そのうえで、今回の謝罪を受けようと思いました。私は1年7か月かかって、東京MXから謝罪を受けました。しかし、DHCテレビの映像は世界中に拡散されています。この状況を何年も放置できないと思いました。だから、謝罪を受けました。

 すみません……すみません……
 沖縄の友達の顔が浮かびます……

 

●DHCとの裁判は、ジェノサイドに流れゆく社会との闘い

 本丸はDHCです。今回の件は、DHCが何らかの悪意をもってやったことです。これ以上、裁判への持ち込みを長引かせるのはよくないと思いました。MXの態度が中途半端なら、敵は2つになります、しかし、MXに詫びを入れてもらったのだから、次の闘いに移ります。

 今は、沖縄の友達を半分の足で踏みつけている状態です。だから、裁判は絶対負けるわけにはいきません。

 司会者の長谷川さんを訴えたい思いが強いです。
 私は東京新聞が大好きでした。弱者に寄り添うメディアだと思っていました。論説主幹の深田実さんが今回の件に関して「深く反省する」と書いていましたがしかし、長谷川さんは円満に定年退職されました。デマを流した人を処分もせず、そのまま退職させたのです。これには深く失望しました。

 マイノリティを傷つけてメシの種にするな!

 東京新聞の論説主幹が処分しないのであれば、私がやろうと思いました。

 私は原告になりうるポジションにいます。残念ながら、今回の件で沖縄は原告になるのは難しい。

 これはデマとの闘い、ヘイトとの闘い、ジェノサイトに流れゆく社会との闘いです。

 私の後輩たちは、私よりきつい状況の中、ボロボロになりながらも闘っています。家族や生活を脅かされながら、声を上げている後輩がいます。その後輩たちに恥ずかしくない先輩になりたい。

 今回の放送によって、私は仕事やあらゆるものを失くしました。
 
 朝鮮人をネタにしてメシを食わんでくれ!
 ヘイトでお金儲けをしないでください!

 その思いで長谷川さんを訴えました。

 深田さんがジャーナリストであるなら、私の行動に応えるべきです。
 自分たちの問題として考えていないから、そんなことができるのです。
 沖縄の問題は日本人の問題です。
 沖縄2紙を読むとつらいです。
 基地の問題に向かわざるを得ません。
 
 在日の歴史を振り返れば、戦争反対になります。それを忘れて、差別する。許せない。

 私を助けてください。 支えてください。

 よろしくお願いいたします。

 

●私が私であることを否定されないために。抵抗としての国籍

 番組の放送後、生活圏の中に嫌がらせがどんどん入ってきました。そこで、どこに身を置こうか考えました。韓国は選択肢の中にありませんでした。

 ドイツへ行って考えました。私は朝鮮人です。日本語の「チョーセンジン」には差別の言霊があります、その言葉が私を打ちます。
 在日には朝鮮人としての実態、文化も背景もありません。しかし、その中で民族名と国籍、被差別体験は在日としてのアイデンティティなのです。
 ドイツに行ってわかったこと。
 文化的に私は日本人だということです。私が韓国籍を維持する理由は、それが抵抗としての国籍だからです。
 私は私である。背が高い、胃腸が弱い、すべてが私です。日本で生まれた朝鮮人韓国籍。何一つとして、否定的なものとして扱われたくない。

 愛国心、そんなものはありません。
 私は私である。
 私の国籍は、私は私であることと、それを否定されないために、抵抗の印として持ち続けるものです。
 
 この後、ドイツに戻ります。どこで生活するかは決めていません。死ぬべきところが日本かも決めていません。