ウリハッキョへようこそ~朝鮮学校の授業参観に行ってきました!

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 5月13日(日)、東京・十条にある東京朝鮮中高級学校で授業参観が行われた。なんと、朝鮮学校と関係のない日本人でも参加OKとのこと。というわけで、さっそく十条へ。

 ここに在籍しているのは、日本でいえば中学1年生から高校3年生までの生徒たちだ。1クラスは20人~40人程度で、中学は1学年2クラス、高校は1学年5クラス。私立の中高一貫校と同じか、やや少ないくらいと考えればいいだろう。

 

 ●学内では朝鮮語、女子はチマチョゴリ姿

 

 女子は学校に到着すると、黒いチマチョゴリに着替える。女性の先生たちもチマチョゴリ姿だ。

 学内で使用する言葉は基本的に朝鮮語だ。授業や部活はもちろん、休み時間のおしゃべりも。

 

 廊下を歩いてすぐに目に飛び込んできたのは、手づくりの貼紙、ポップだった。4月27日の南北首脳会談成功を報じた新聞記事、そして文大統領と金委員長の写真だった。やはり、南北が和解へと歩みだしたことは、生徒たちもずっと待ち望んでいたことだったとわかる。

 運動会や学校行事、運動部(サッカー部、ラグビー部、バスケット部)が日本の学校と試合したときの写真もあった。東京朝鮮高校といえばサッカーの強豪校だが、ほかのスポーツも強い。部活動レベルでは日本の学校との交流が行われているのだ。

 5月3日開催の憲法集会で合唱部の女子たちが歌っている写真もあった。

 寄せ書きや写真のキャプションはハングル。廊下の中ほどに休憩スペースがあり、ここに「ウリハッキョへようこそ」と日本語で書かれた貼紙があった(ウリハッキョは「私たちの学校」という意味)。カラーの模造紙に引き伸ばした画像を貼り付け、手描きのイラストを添える。これほどたくさんのポップを見たのは初めてだ。

 

 授業が始まる前の教室内はまだ騒がしい。席につかないで友達のところでしゃべっている子、着席したもののあたふた用意をしている子…。廊下にいる私と目が会うと、緊張した面持ちながら会釈する子も。

 

 

 授業が始まった。朝鮮語がわからなくて大丈夫かなあ、と思いつつ、高校生の教室に入ってみる。

 

Good morning !

 

 先生が入ってきて挨拶。ピンクのチマチョゴリ姿のまだ若い女性の先生だ。やった! 英語だ。これならわかる!

 当然だが、解説は朝鮮語だ。先生と女子生徒のチョゴリ姿と朝鮮語が、ここが朝鮮学校であることを思わせる。

 先生はPCを使い、短い動画を見せた。50年前のミュージカル、メリー・ポピンズのワンシーンだ。主演のジュリー・アンドリュースが、やたら長文のおまじないを早口で唱えながら踊るシーンで、なぜかメロディだけは知っていた。

 

Super cali fragilistic exppiali docious ♬

 

 これをグループに分かれて発音を練習。私もやってみたが、なかなか舌が回らない。けっこう難しかった。

 

  • 日本語古文ではディスカッション。心理の変化を絵に描かせる

 

 次は高校生、日本語の古文だ。なんと平家物語である。こちらは若い男性の先生で、授業は日本語で行われた。

 場面は熊谷次郎直実が捕まえた公達の首を掻っ切ろうとしたが、思いとどまったシーン。

「熊谷次郎直実は首を切ろうとしたんだよね。公達の首を切れば、自分の名前をあげることができる。しかし、公達の顔をよく見ると、まだ若く、おはぐろをしている少年だった」

 と先生は現代の日本語に訳して、解説。ここまでは、日本の学校でもよくあるが、驚いたのはこれから。

 

「では、熊谷次郎直実がなぜ気持ちが変化したのか、グループで話し合って。それから、変化していく様子を3枚の絵にまとめてみて」

 

 え、ディスカッション? しかも、絵にするの!? 

 

 古文の授業では、教師が言葉の意味と訳、時代背景を解説して終わりだとばかり思っていた。だって、そういう授業しか知らない。古文でディスカッション、絵と、あまりの発想の違いに驚いていると、先生は前回生徒たちが描いた3枚の絵を見せた。それはアニメタッチで兜姿の武将と馬が描かれていた。

 

 後で、こちらにお子さんを通わせている友人に話をすると、ディスカッションはかなり当たり前なのだという。それでも、絵にまとめるのは、かなり珍しいのではないか?

 この方法がすごいなと思うのは、より深い理解につながるところだ。心理の変化を3段階に分け、しかもそのターニングポイントを絵にするとなると、試験のために覚えるような通り一遍の解釈ではとても足りない。そのためにディスカッションをする。話し合うことで、自分とは違う捉え方があることを発見する。また、勘違いして覚えていれば、話し合うことで修正される。みんなで共通した見解をつくりあげていくわけだ。さらに、視覚化すれば記憶に残る。中途半端な理解のまま暗記させるより、テストでははるかにいい点が取れそうだ。

 高校時代、こんなおもしろい授業を受けたら、古典は全部100点取れたかな。もっといい大学にも行けたよね、残念(>_<) と思いつつ、次の教室へ。

 

  • 日本語の授業では日本語OK

 

 高校生の英語では、朝鮮の開城(ケソン)についての歴史。別のクラスでは、アメリカの先住民族、チェロキー族について。なるほど、祖国や他国の少数民族についての内容なら、英語でやるにしても興味が涌いてくる。

 朝鮮現代史と思しき授業では、「朝鮮プロレタリアート」「平和」という言葉は聞き取ることができた。理科では「陽子」「原子」「中性子」など、漢字が書いてあったので、朝鮮語でしゃべっていても少し理解することができた。数式だけの数学も中学レベルの簡単なものならわかった。

 

 日本語現代文では芥川龍之介の「羅生門」。これも高校生のときにやったなあ。中学生の日本語では、古文の基礎、動詞の五段活用。上一段活用と上二段活用。ああ、こんなことやったなあと思いつつ。「ありおりはべりいまそかり」「こきくくるくれこよ」と暗記させられた古語の活用をウン十年ぶりに口に出してみる。

 ちなみに、日本語の授業ではすべて日本語という先生もいたが、朝鮮語が混じる人も。訪問する前は、学内ではすべて朝鮮語しか使われないと思っていたのだが、そうでもなかったのが驚きであった。

 

  • みんな顔見知り。小さい子どももやってくる

 

 授業参加に訪れたのは、保護者とその兄弟姉妹がほとんどだった。中学生ぐらいだと、小学生の弟や妹に手を振ったりする。オモニ(お母さん)が来ると急に笑顔になる生徒も。

 授業中、先生の目を盗んで隣の子としゃべったり、こづいたりというのは、日本の学校でも同じ。

 休み時間になると、中学生も高校生も男子はじゃれあって遊んでいる。プロレスの技をかけて遊んでいる男子たちの横をオモニらしき女性が通りがかり、大笑い。

 保護者たちもみんな顔見知りなのか、仲がよさそうだ。何人かが集まって、あちこちで日本語でおしゃべりしていた。

 学校の外では、小さい子どもたちがボール遊び。グラウンドの隅でゲームに熱中する男子。一緒に遊んでほしいのか、これから部活というお姉さんのそばから離れない女の子。

 日本の学校の授業参観で、小さい子どもたちがやってくることってあるのかな? 私には経験がない。

 そういえば、ドキュメンタリー映画「60万回のトライ」の朴思柔監督が、「朝鮮学校在日朝鮮人にとってコミュニティ。学外の大人も子どももやってくる」と言っていた。運動会は一大行事、生徒の家族や親戚みんなでやってくるのだという。たしかに、授業参観でさえ多くの子どもが来たのだから、運動会になったら本当にすごいだろう。

 

 

 この日は保護者の総会もあり、ゲストとして招かれた朝鮮学校支援者の長谷川和男さんが講演した。長谷川さんは元日本の学校の教師。全国の朝鮮学校と幼稚園を行脚し、授業を見学した経験から、朝鮮学校の魅力を「自主的で自立的な教育が行われているところ」と語った。

朝鮮学校の先生たちは日本の先生と違って自立しています。日本の文科省は先生たちの自主性を奪いました。しかし、朝鮮学校では先生たちが自分で考えて、授業をしています。残念ながら、朝鮮学校を支えている若い先生たちの給料はとても少ないので、心が痛みます。日本人でも朝鮮学校のすばらしさを知り、給食をつくったり、読み聞かせのボランティアをする人が出てきました。ともにがんばりましょう」

 

 教室の前面には金日成金正日親子の肖像画が掲げてあった。この肖像画については、いろいろ批判はあるだろう。でも、これだけ書いておこう。朝鮮は日本によって南北に分断された、といっても過言ではない。日本にかなりの部分責任がある。そして、日本に残った(残らざるを得なかった)朝鮮人たちの民族教育を支えてきたのは北だった。

 たくさんの教室で目にしたのは、青く塗られた朝鮮半島の地図。統一を達成した朝鮮。さわやかなパステルブルーは、辺野古で見た海を思わせた。

 

 新たな発見でわくわくするとともに、ほっこりとした3時間だった。また機会があれば、いろいろな行事を見学したいな。

 というわけで、先生方、生徒さん、保護者の皆さん、カムサハムニダm(__)m