技能実習生がセクハラ被害諸々を訴える③ @水戸地裁

 

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■虚偽だらけの監査報告書と強制帰国~元職員は訴える

  中国人女性技能実習生Aさんが未払い賃金と実習中に受けたセクハラ被害等に対して損害賠償を求めた裁判が、2月23日(金)水戸地裁であった。

 今回は被告である雇用主農家のB親子、受け入れ団体である協同組合つばさの実質代表者D、そしてもう1人の原告Cさんの尋問が行われた。

 

 Cさんは中国人男性(44歳)。事件当時協同組合つばさ(以下つばさ)に勤務し、技能実習生にかかわる仕事をしていた。しかし、実習生が違法な扱いを受けていることを知り、彼女たちを助けようとしていたところ解雇されてしまった。裁判では、解雇は無効であると主張して労働契約上の地位の確認、未払い賃金と遅延損害金の支払いを求めている。

 長く日本にいるだけあって、流暢な日本語を話すCさん。今回の尋問は通訳なしで行われた。

 今回はCさんと関係者の証言と陳述書から、元職員の目からみた監理団体の実態を描いてみようと思う。

 

事件の概要(原告・セクハラ被害者Aさんの証言)

http://mimikuro.hatenablog.com/entry/2018/02/04/172039

 

被告Bの証言

http://mimikuro.hatenablog.com/entry/2018/02/27/095550

 

茨城県下最大の監理団体

 Cさんはもともと技能実習生監理団体である協同組合若葉で働いていたが、2013年9月つばさに異動。若葉、つばさともDが実質的オーナーを務めている。いずれも茨城県を中心とした農家で技能実習生を受け入れる際の監理団体であった。当時つばさは実習生400人、組合員150社を抱える茨城県下最大の監理団体であった。

 Cさんはつばさで、入国管理局に提出する書類の作成や農家で働く技能実習生の管理などを行っていた。技能実習生の管理には、雇用先の農家を巡回して実習生の働きぶりを確認したり、実習生や農家からの相談に対応することも含まれる。

 監理団体は技能実習生という人材を農家に派遣する人材派遣会社。Cさんはその営業兼事務職と考えれば、非常にわかりやすいだろう。

 つばさでの待遇は年棒400万円。勤務時間は午前9時から午後6時までであったが、毎日のように残業があり、土曜日も隔週で仕事をした。しかし、出勤・退勤を含めた労働時間の管理は一切なされず、残業代も出なかった。

 

●巡回指導でセクハラを目撃

 今回セクハラで訴えられているB宅はCさんの担当であった。ある日、CさんがB宅へ巡回指導に出向き、Aさんと話をしていると、Bが出てきた。Cさんが挨拶がてらBに「うちの実習生、がんばっていますか?」と尋ねると、Bは「がんばってますよ」と答えた。そして、Aさんのほうに駆け寄り、「チューチューチュー」といってキスしようとした。

 Cさんはこのときの様子を次のように証言している。

「あまりにも衝撃的でした。でも、B宅はつばさにとって大事なお客さんなので、その場で注意できませんでした」

 Bが去るとAさんは「うちのボスはこういう人なのよ」とCさんに一言。Cさんは、ここでセクハラが行われていることを確信した。

 その後CさんはAさんからセクハラと夜間の大葉を巻く作業について相談を受けるようになった。大葉巻きについては、作業時間を記録するように指示したが、セクハラについては我慢するように伝えた。つばさのほうで問題を訴えるAさんを厄介と感じれば、強制帰国させてしまうかもしれないと考えたからであった。それでも度重なる訴えに、Cさんはきちんと解決しなければならないと考えるようになった。

 

●強制帰国の危険性を伝える

 Cさんは、実質の代表であるDを含め、つばさの職員全員にセクハラの事実を報告し、何とか問題を解決するように要求した。しかし、つばさでは何の対応もしなかった。それどころか、CさんをB宅の担当からはずしてしまった。それでも、Aさんはじめ実習生たちは、後任の担当者にもセクハラや賃金未払いの問題を訴え続けた。

 ある日、DとCさん、Aさんは話し合いをすることになった。つばさの対応に憤りを感じながらも、まだ職員としての意識が強かったCさんは、何とか穏便に済ませようと、これまで何度もAさんと話し合ってきて、この話し合いにも同席したのであった。

 Dは代表者として、Aさんにセクハラの慰謝料と未払い賃金として30万円程度支払うことを申し出た。しかし、Aさんはこれを拒否した。作業時間から計算すると30万円では安すぎたからであった。

 Cさんは話し合いが決裂したのを見て、強い危機感を抱いた。Aさんが条件を飲まなければ、邪魔者扱いして、帰国させられてしまうからであった。案の定、話し合いが終わり解散した後、DはCさんにAさんを事務所へ連れてくるよう命じた。そうはさせるまいと、CさんはAさんの説得を続けながら、強制帰国の危険性を伝えた。

「今後、つばさの職員がやってきて事務所へ行こうと言われるかもしれないけど、絶対について行かないように」

 

●作業着のまま帰国させられた実習生

 Cさんは、実習期間を中断され、無理やり帰国させられてしまう実習生の姿を見てきた。

 1人はレンコン農家で働いていた実習生であった。指を機械に挟まれて切断、4本の指を失ってしまった。

 それでも、この実習生はまだ働こうとする意志はあったため農家と交渉しようとしたが、Dはその機会を与えず実習生を事務所へつれてきて、帰国するよう促した。

 実習生は事務所から中国の実家に電話し、大泣きで指をなくしたことを母親に報告した。しかし、隣のテーブルに座ったDと他の職員は、自分の思い通りに事件を解決できたと満足そうな態度をとっていた。それを見て、Cさんは深く心を痛めたという(以上、Cさんの陳述書から)。

 作業内容や賃金の計算方法にクレームをつけた実習生も、強制帰国させられた。

「他にも、就業中、作業着のまま車に乗せられて連れて行かれた実習生がいました。私が成田空港までパスポートを届けにいきました」

 

●つばさの職員が押しかけて脅迫

 Cさんの予感は的中した。話し合いの2日後、つばさの別の職員たちがB宅へやってきて、実習生たちを事務所へ連れ出そうとした。しかし、Cさんから注意を受けていた実習生たちは同行を強く拒み、部屋に立てこもった。

 つばさの職員たちは、夜11時ごろまで部屋の外で大声を上げ、ドアを叩いた。職員の1人は「お前らを中国へ返すことは、たやすいことなんだよ!」と何度も怒鳴った。

 B宅での騒動は、すぐに近所の農家で働く実習生たちの知るところとなった。彼女たちはCさんに電話をかけ、B宅での不穏な動きを伝えた。それを聞いたCさんは交番へ行き、警官へ相談。その場で、再び電話をかけた。

「携帯電話をスピーカーモードにして、通話音が聞こえる状態で会話をすると、泣きながら助けを求める声が聞こえてきました。それを聞いた警官から、110番にかけ直して通報したほうがいいとアドバイスされたので、その通りにしました」

 一方、B宅では、Dたちつばさの職員は警察が到着する前に引き上げていった。

 しかし、警察沙汰になれば、つばさの信用にかかわる。今回の行為はCさん解雇理由の1つとなった。

 なお、被告側は実習生を連れ出そうとしたのは、事務所で詳しい話を聞くためであり、Cさんは警察に虚偽の通報をしたと主張している。

 

●セクハラ被害を記録

 Cさんは、実習生がバラバラにされてしまう前に、Bのセクハラの事実を訴えようと考えた。そこで、実習生を集めて被害を聞き取った。そして、文書化して全員に回覧してもらい、証拠としてサインしてもらった。被害内容は、日時がはっきり特定できるもの、他の実習生も目撃しているものに限定した。さらに、実習生たちが文書を回覧、サインしている様子も動画で撮影した。文書と動画は今回の裁判でも、証拠として提出されている。

 なお、この頃、技能実習生問題に取り組む岐阜一般労組と連絡を取り、アドバイスを仰ぐようになった。

 

●虚偽だらけの監査報告書

 このような行動にCさんを駆り立てたのは、もうこれ以上不正行為に加担することに耐えられない、という気持ちであった。

 技能実習生の監理団体では、技能実習生の就労状況などに関する監査報告書を毎月入国管理局に提出する必要がある。Cさんはこの監査報告書を作成していた。しかもDに命じられて、技能実習生たちの実際の就労実態ではなく、入管から問題を指摘されないように、勤務実績、賃金台帳、給与明細、賃金受取書、実習日記、監査記録等、すべて虚偽の記載をして提出していたのであった。

 それは、「農家による不正を容易にし、農家が労働力を安く利用しやすくなるような運用」であったという。

 

●職員に取り囲まれ、警察へ通報

 事件当時作成中の監査報告書も虚偽だらけであった。

「B宅についても問題が起こっていたのに、『計画どおりの実習』と嘘を書きました。自分が担当する前も同じように嘘が書かれていました」

 これを提出させないようにしなければならない。そこで、事務所で監査報告書を印刷し、かばんに隠した。監査報告書は作成でも印刷でも、Cさんでなければできない仕様に設定していたため、とりあえず印刷して保管してしまえば、勝手に提出されるおそれはなかった。

 しかし、いったん外出してから再び事務所へ戻り、帰宅しようとしたとき、職員たちに取り囲まれてしまった。職員たちは進路をふさぎ、Cさんの服を引っ張ったりしながら、実習生の味方になったCさんをなじった。身の危険を感じたCさんは、警察に通報、警官に守られながら帰宅することとなった。

 なお、被告側はこのとき、Cさんが「必ず組合をつぶす」と恫喝的な発言をして、無断外出したと主張している。

 

 被告側は解雇理由を、①警察へ事実と異なる通報を行ったこと、②監査報告書作成ソフトを消去し、報告書を無断で持ち出したこと。③遅刻と無断外出を繰り返したこと。と主張している。もちろん、「必ず組合をつぶす」という発言と無断外出も含まれている。

 これに対してCさんは、①についてはこれまで書いたとおり、虚偽の通報ではない。②については、ソフトの消去など行っていない。③については、遅刻や無断欠勤はもちろん、「必ず組合をつぶす」といった発言もしていないと、すべて否定している。

 

●「いい質問ですね、私もそれを言いたかったですよ」

 被告側はCさんの主張をことごとく否定し、陳述書では事件とはまったく関係ないCさんへの家族関係や、人格を貶めようとする記載も見られた。

 反対尋問では、被告側代理人弁護士の1人はわかりにくい質問を繰り返した。ひっかけなのか、主語や目的語を省略したり、何を言いたいのかあいまいな尋ね方をする。傍聴席で聞いていて、これは日本語が母語でなければ難しいだろうと感じた。しかも、Cさんが確認しようと問い直すと、「あなたがねえ、素直に答えればいいんですよ!!」などと声を荒げる。

 見かねた原告側代理人の指宿弁護士が、「いくら日本語ができるといってもネイティブではないのですから、もう少し質問の仕方を考えてください」と注意すると、ふてくされたように「ハイハイ、こちらもやっているつもりなんですけどね」だって。真正面を見ると、裁判官も苦笑していたのがわかった。

 極めつけは、Cさんがつばさの職員たちから取り囲まれ、警察に通報した際、「左手で携帯電話を持ってかけた」と証言したとき。弁護士は即座に「そんなことないでしょ!! 実力行使、受けてるんだから!!」と声高に否定。さすがにこのときは裁判長から「まあまあ、そのように主張しているんですから」と、やんわりと注意を受けた。

 しかし、Cさんだって負けていなかった。弁護士の威圧的な態度にも負けず、質問の意味を理解すると「いい質問ですね、私もそれを言いたかったんですよ」と前置きして、根拠を添えてすらすらと答える。

 すごい! 私も裁判をいくつか傍聴してきたが、こんな前置きを聞いたのは初めてであった。これをCさんは2回発言した。精神的余裕がなければ、こんなことは言えない。(だからこそ、被告側代理人弁護士は気に触ったのかもしれないが…)

グッジョブ(^_^)v Cさん!!