相手が北朝鮮、朝鮮総連なら何をやってもいい!?  醸成されるヘイトの空気

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 朝鮮総連への襲撃事件を受けて緊急報告

ヘイトスピーチ解消法ができても効果は限定的」とする調査結果が、20日(火)専門家により示された。 

 報告したのは、ヘイトスピーチに詳しい社会学者・関東学院大学非常勤講師の明戸隆浩氏。人種差別撤廃に向けて日本の取り組む課題について、民族問題や差別問題に取り組む専門家、市民団体、研究者などが集まった会合で、朝鮮総連への襲撃事件を受け、緊急報告がなされた(於衆議院議員会館。主催は人種差別撤廃NGOネットワーク)。

 

●解消法により、ヘイトデモは減ったが街宣は微減

 まず、2016年解消法が施行された後で、悪質なヘイトデモや街宣がどのくらい減少したのか。

 デモは、法施行前の1年間は76件であったが、施行後1年間は43件と、かなり減少した。しかし、小規模な街頭宣伝は、施行前の1年間は283件だったのに対して、施工後1年間は247件とわずかな減少にとどまり、2017年の街宣は280件と施行前とほぼ同じになっている。*

 都市部での大掛かりなデモは減ったものの、小規模の街宣活動は相変わらず行われており、レイシストたちは「地道な」活動にシフトした模様だ。

 明戸氏は「法律が施行されてから、デモが減ったので、ヘイトスピーチは一時的に見えなくなった。しかし、街頭宣伝ではかなりひどい表現が繰り返されている。法律はできたが、ヘイトスピーチが解消されたとはいえない状況」と憂う。

 

レイシズム監視情報保管庫のデータから。施行までの1年間は2015年6月3日~2016年6月2日、施工後1年間は2016年6月3日~2017年6月2日。

http://odd-hatch.hatenablog.com/

 

●コメントの8割がテロを支持。相手が北朝鮮なら「何をしてもいい」

 インターネット上の差別文言やヘイトデマも深刻だ。明戸氏は2月23日に起こった朝鮮総連襲撃事件について、インターネットにおける反応を調査。ヤフーニュースで流された第一報のうち、最もコメント数の多かった記事*を使用し、寄せられたコメントを分析した。

 結果は、驚くべきことに8割が襲撃事件を肯定・賞賛する内容であったという。

 コメントの内容は4つに分類される。

 1つは、朝鮮総連が事件を起こし、被害者を装っているという自作自演説。容疑者の名前が報道される前、多く見られた。

 2つ目は、自業自得、あるいは「朝鮮総連があるから事件が起こった」というように、事件の責任を朝鮮総連に転嫁するもの。

 3つ目は、「よくやった!」「ヒーロー現れた」「これだけ覚悟を持って行動を起こした男気を見習い~」という容疑者をストレートに賞賛。数はそれほど多くない。

 4つ目は、「どうせならミサイルドーン」「これで済んでよかったじゃん」「中途半端だなー」など被害を矮小化。こちらも数は多くない。

 

 ちなみに、この事件の前の2月11日、国際政治学者の三浦瑠麗東京大学講師が、フジテレビ・ワイドナショーにおいて、「大阪に北朝鮮スリーパーセルが潜伏している可能性がある」と発言。また、襲撃事件当日も、自民党山田賢司衆議院議員が、なんと、朝鮮籍者に対する就労制限を検討すべきという趣旨の質問を衆議院予算委員会で行った。

 

「三浦氏や山田議員の発言が事件やニュースのコメントに影響を与えたかどうかは実証的に示す証拠はないが、相手が北朝鮮朝鮮総連となると、ヘイトスピーチのハードルが下がる。何をやってもいい、何を言ってもいいという雰囲気を醸し出していることは否定できない」(明戸氏)

 

*ニュースは、テレビ朝日朝鮮総連中央本部に銃弾 右翼団体の男2人逮捕」。2018年3月19日時点で削除済み

 

ヘイトスピーチには刑事罰を付加した法律を!

「現行のヘイトスピーチ解消法の効果が限定的なのは、刑事罰がないから。新たな法整備が必要」と、明戸氏の次に報告した原田學植弁護士(在日韓国人法曹フォーラム)は断言した。

 また、ゲストとして訪れた尾辻かな子議員は、大阪で行われたヘイトデモにカウンターとして出向いたときの経験から、現行の法律がいかに効果がないか実感したという。

「警察はデモを行うヘイターを守っている。そこで、警察になぜあんな人たちを守るのか聞いてみると、『法律には刑事罰がないので、私たちには取り締まることができない』と言われた。大阪にはヘイトスピーチを規制する条例もあるが、やはり刑事罰がないために役立っていない。だから、警察に守られながらヘイト街宣ができる。実効性ある法律を検討すべき」(尾辻議員)

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 集会の最後、今年2月に起こった朝鮮総連への襲撃事件に強く抗議するとともに、日本政府に対して事件に対する厳正な対応と、今回のようなヘイトクライム再発防止および人種差別撤廃に向けた法整備を求めたアピールを採択した。

 

 なお、当日は、ヘイトスピーチのほかにも、移住者の権利(技能実習生問題、移住女性へのDV、難民認定、入管収容所での処遇など)、在日コリアン年金問題朝鮮学校の排除と教育の権利、ネットと部落差別問題、アイヌ先住民の権利などについて報告がなされた。いずれも興味深く、新たに知った問題もあった。これらについては、いずれ改めて紹介しようと思う。

 

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 それにしても……たった1本のニュースの分析とはいえ、8割がテロを支持するという結果はショックだった。「相手が北朝鮮なら何をしてもいい」という空気が蔓延していて、何かがあれば暴発する。その暴発が、今回の朝鮮総連襲撃事件だ。

 それ以前にも事件は起こっていた。拉致問題が大きく報じられた頃には、朝鮮学校へ通う女子生徒のチマチョゴリが切り裂かれたし、京都では朝鮮学校(小学校)が在特会によって襲撃されている。

 私の知り合いの在日コリアンの一家は、危険を避けるために日本名の表札を掲げるようになったという。それまで通名を使わずに本名を名乗ってきたが、こんな状態では安心して暮らせないからだという。

「考えすぎ」と思う日本人はいるかもしれない。でも、そんなことはないと断言する。ここには貼らないが、外国人が多く住む団地にレイシストが訪れ、汚い言葉で紹介しているサイトを見たとき、こんなところにまでやってきているのか、怖くなったことを思い出す。

 今の空気は、日本人の私にとっても怖い。