「危険な作業と知っていれば、来日しなかった」ベトナム人技能実習生除染問題で記者会見

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■「除染作業は技能実習制度の趣旨に反する」。支援団体が記者会見

 

 3月6日の日経新聞ベトナム人技能実習生が福で除染作業に従事していたことが報じられ、SNS上で非難の声が挙がっている。

こうした中、「除染作業は技能実習制度の趣旨に反する」と、本日(14日)、実習生を支援する労働組合、支援団体が記者会見を開き、詳細を報告した(主催は移住者と連帯する全国ネットワーク)。

除染作業に従事したベトナム人実習生Aさんは、「除染作業のことは一切知らされなかった。危険な作業と知っていれば、来日しなかった。将来、自分の子どもに影響が出ないか不安」と訴えた。

 会場には逢坂誠二氏、石橋通宏氏、糸数慶子氏、山本太郎氏、福島みずほ氏、川田龍平氏、畑野君江氏など国会議員が12人も姿を見せた。

 

  • 目的は建設機械の仕事。除染作業と知らされず

 Aさん(ベトナム人・男性・24歳)は2015年9月に技能実習生として来日。福島県白河市内で監理団体・協同組合Bにおいて1か月間講習を受けた後、10月からC社に雇用され、技能実習を開始した。

ベトナムでの雇用契約書によれば、技能実習の職種は「建設機械・解体・土木」であり、除染作業という記載はなかった。また、来日後も監理団体、雇用先のC社からも除染作業をやる、あるいはやる可能性があることを書面でも、口頭でも一切知らされなかった。

福島の原発事故については世界で報道され、Aさんもニュース等で知ってはいたが、自分が従事している作業が危険なものであるという認識はまったくなかった。自分が被爆労働に従事することなどまったく考えておらず、契約締結のときも来日してからも何も伝えられなかったため、作業がどの程度危険なのか等、何の予備知識もなかった。しかも、会社からは何の説明もなされなかった。

 

 最初に従事したのは、福島県郡山市の市街地(住宅、駐車場、道路など)の除染作業であった(2015年10月~2016年3月まで)。作業内容は汚染された表土を数センチ削ってフレコンパックに移送し、削った場所に汚染されていない土を詰めるというもの。

 この汚染土壌の入れ替え作業の発注元は郡山市。某社が受注し、一次下請けは株式会社エーアイ、C社は二次下請けであった。Aさんはエーアイの指示の下、作業を行った。元請の下に下請が延々と続く重層的な関係の中での就労は、除染作業の特徴である。

こうした関係の中で、現場の放射線測定と管理はエーアイが行ったが、C社では放射線測定の記録などの書類を一切保管していない。本人に対しても、線量結果など通知していない。

 ちなみに、郡山では三菱マテリアルテクノ株式会社が元請けとなる工事にも従事した。C社と三菱マテリアルテクノの間には2社が介在していた。

 

  • 日給5800円。日本人がやれば1万6000円~2万円

給与は月額14万5000円。固定給除染作業に伴う手当てなどは支給されなかった。Aさんは多いときで、月200時間働いた。そこから計算すると、除染作業は時給725円、日給5800円。

 同じ作業を日本人がやるとどのくらいの賃金になるか。C社が以前、ハローワークに出した求人募集内容によれば、1日1万6000円~2万円であった。

 ちなみに、Aさんがいた当時の福島の最低賃金は710円程度。C社は最低賃金より10円程度しか変わらない金額で、危険な作業に従事させていた。

 

  • 避難指示区域内で解体作業

 2016年9月から12月まで福島県川俣町で被災建物の解体工事に従事した。当時、現場は飯館村に隣接、汚染が高く誰も住んでいない、避難指示区域内に位置していた。

解体工事は国(環境省)直轄の事業であったため、外部被爆線量の記録および放射線管理手帳の交付が義務付けられていた。しかし、放射線管理手帳は本人に渡されなかった。

 

  • 危険手当をピンハネされる。危険な作業と気づく

国の事業であったため、作業者には特別作業手当て(危険作業手当て)、1日6600円が支給されることになった。しかし、Aさんは2000円しかもらっていなかった。なぜ、4600円ピンハネしたのか、C社の社長は「危険作業手当て込みで受注しているので、全額を作業員に渡したのでは成り立たない。他の会社もみな状況は同じ」と団体交渉の際答えている。

 そもそも、何も教えられていないAさんはなぜ2000円もらえるのか、わかっていなかった。そこで現場責任者に尋ねた。

 

Aさん「これは何のお金ですか?」

現場責任者「危険手当だよ」

Aさん「なぜ危険手当ですか? 危険な仕事をしているのですか?」

現場責任者「嫌なら、ベトナムへ帰れ」

 

 このやり取りがきっかけで、Aさんは次第に「自分は危険な作業をやらされているのではないか」という疑問を抱くようになった。

 

  • 避難指示解除地区で解体作業

 その後もAさんは、福島県川俣町や飯館村において、次のように被災解体工事に引き続き従事した。同地区では、2017年3月に一部地域の居住制限、避難指示区域の指定が解除された。しかし、解除といっても被爆線量が年間20ミリシーベルト以下になったからという理由であり、決して安全とは言えない。

 

飯館村村営住宅解体工事(2017年1月~3月)

・川俣町被災解体工事(2017年3月~5月)

・川俣町廃材仮置き場細分別作業(2017年5月~8月)

飯館村被災解体工事(2017年9月~10月)

・川俣町山木屋中学校内装解体工事(2017年10月~11月)

飯館村被災解体工事(2017年11月)

 

 2017年1月から3月まで飯館村での村営住宅解体工事に従事したが、このときはまだ避難指示区域に指定されている最中であった。

 

 なお、Aさんは福島県以外に岩手、山形、宮城でも働いたが、就労の大半は福島県内での除染作業、被災建物の解体工事であった。

 

 作業を続けるうちに、強い不安を感じたAさん。いろいろなところから、被爆による健康被害の情報を聞くようになった。Aさんは会社に作業の不安を訴えたが、「嫌なら帰れ」と言われるばかりであった。

ついに、Aさんは寮を脱走、支援者に助けを求め、全統一労働組合につながることができた。

 2017年12月、全統一労組はC社と監理団体に、Aさんの従事した除染作業に関して事実関係を明らかにするよう求め、団体交渉を申し入れた。合わせて、本人に対して、健康診断の記録等を開示するよう求めた。

 なお、健康診断については、Aさんは実習中に受けた診断結果を知らされていなかった。それもあり、別途被爆について調べることにした。2017年12月Aさんは尿検査を実施したところ、幸いなことに放射性セシウムCs 134、Cs137は検出されなかった。ただし「定量化できないがピーク有りと判定」(ごく微量であるが、ピーク時を確認した)と報告された。

 

  • ずさんな管理と規則違反

2018年2月、郡山市で団体交渉が行われた。C社代表は出席したが、監理団体は欠席した。この団体交渉によって、次の問題点が明らかになった。

 

 

 

除染作業に際して教育なし

  除染作業を行う際、会社は除染電離則(東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除去するための業務等に係わる電離放射線障害防止規則)という規則に基づいて、作業員に安全教育を行わなければならない。しかし、C社は何もしなかった。

全統一側が「何も教育しなかったのか?」と問うと、「いや、マスクのつけ方はちゃんとやってます」とC社社長。しかし、日本語でマスクの装着方法を教えたとのことであり、日本語を4か月しか勉強していないAさんはそれすら理解していなかった。

 

 

健康診断の結果を知らせない。記録を保管しない

 除染電離では半年に1度特別健康診断が義務付けられ、結果も本人に通知しなければならないとされている。しかし、C社は健康診断の結果を本人に通知していなかった。診断結果もすべて保管していなかった。また、外部被爆測定記録も保管していなかった。また、川俣町での解体作業では、放射線管理手帳を交付されたが、Aさんは受け取っていない。

 

危険手当6000円のうち4600円をピンハネ

 前述したように、「全額を作業員に渡していたのでは成り立たない。ピンハネしなければ受注できない」とC社代表。

 

  • 「借金してやってきた。子どもが生まれたとき、被爆の影響が心配」

 来日に当たってAさんは、ベトナムの送り出し機関に1万3000ドル(米ドル)支払った。2015年当時の米ドルの平均を120円として計算すると、156万円である。支払った1万3000ドルのうち3000ドルが保証金であり、実習期間を終了しないうちに帰国すると送り出し機関に返済しなければならない。これが前借金となって、ひどい搾取が行われていてもなかなか訴えられないところが、奴隷制と批判される理由である。

 除染作業はもちろんであるが、C社は通常の労務管理もずさんであり、問題を抱えていたようだ。有給休暇を使って病院へ行ったのに、欠勤扱いされ、給料から引かれていたことがあった。それが今回の脱走のきっかけにもなったという。

 一緒に働いていたのはAさん含めて3人。やはり同じ作業に従事させられていた。支援団体によれば、福島県内で働く技能実習生・留学生の中にはAさんと同じように、除染作業に従事している人たちが少なからずいると思われる。

「来日に当たって借金した。しかし、危険な作業とわかっていれば、来日しなかった。危険な作業をやらされているとわかったとき、すごく不安になった。しかし、誰にも相談できず、ストレスになった。2年間ずっと心配しながら仕事をしていた。将来結婚して子どもが生まれたとき、被爆の影響が心配」とAさんは不安を口にする。

 

  • 「除染は大事な作業だからこそ、労働者として受け入れなければならない」

 今回の問題に対して、外国人技能実習生権利ネットワークの鳥居一平氏は次のようにコメントした。

「今回、除染作業に技能実習生を従事させていたことについて、この制度が偽装、まやかしであることがはっきりした。除染作業は明らかな日本国内事情。これをやることが「開発途上国への技術移転」ではないのに、明らかに偽装している。日本で働く外国人労働者のうち、20%が技能実習生、23%が留学生と半数近くが、本来の目的(労働)とは別の立場で受け入れている。人手不足で困っているなら、助けてもらえばいい。いつまでおためごかしをやるつもりか。除染は大事な作業だからこそ、労働者は労働者として受け入れていく政策が必要」

 

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 記者会見に参加した国会議員の中からも質問、意見が寄せられた。立憲民主党逢坂誠二氏は、日経新聞の報道を受けて質問趣意書を提出。①除染作業は技能実習制度の基本趣旨に反している。②除染作業の対象職種は何か。③実習実施機関の不正は処分の対章になるのか、など政府の方針を明らかにすると報告した。

 

 なお、3月14日付けで、「技能実習制度における除染等業務について」(法務省厚生労働省技能実習機構)という通知が出された。

http://www.otit.go.jp/files/user/docs/300314-1.pdf

 

 通知によれば、除染作業は「技能実習の趣旨にはそぐわないものであり、技能実習法施行規則第 10 条第2項第 2号イの基準を満たしていないため、除染等業務を実習内容に含む技能実習計画の認定 申請があった場合には、外国人技能実習機構において認定しないこととしております」と明言している。

 それならば、早急に福島で除染作業に従事させられている実習生たちにこれを伝え、別の職場に異動させるべきだ。一刻も早く!