「危険な作業と知っていれば、来日しなかった」ベトナム人技能実習生除染問題で記者会見

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■「除染作業は技能実習制度の趣旨に反する」。支援団体が記者会見

 

 3月6日の日経新聞ベトナム人技能実習生が福で除染作業に従事していたことが報じられ、SNS上で非難の声が挙がっている。

こうした中、「除染作業は技能実習制度の趣旨に反する」と、本日(14日)、実習生を支援する労働組合、支援団体が記者会見を開き、詳細を報告した(主催は移住者と連帯する全国ネットワーク)。

除染作業に従事したベトナム人実習生Aさんは、「除染作業のことは一切知らされなかった。危険な作業と知っていれば、来日しなかった。将来、自分の子どもに影響が出ないか不安」と訴えた。

 会場には逢坂誠二氏、石橋通宏氏、糸数慶子氏、山本太郎氏、福島みずほ氏、川田龍平氏、畑野君江氏など国会議員が12人も姿を見せた。

 

  • 目的は建設機械の仕事。除染作業と知らされず

 Aさん(ベトナム人・男性・24歳)は2015年9月に技能実習生として来日。福島県白河市内で監理団体・協同組合Bにおいて1か月間講習を受けた後、10月からC社に雇用され、技能実習を開始した。

ベトナムでの雇用契約書によれば、技能実習の職種は「建設機械・解体・土木」であり、除染作業という記載はなかった。また、来日後も監理団体、雇用先のC社からも除染作業をやる、あるいはやる可能性があることを書面でも、口頭でも一切知らされなかった。

福島の原発事故については世界で報道され、Aさんもニュース等で知ってはいたが、自分が従事している作業が危険なものであるという認識はまったくなかった。自分が被爆労働に従事することなどまったく考えておらず、契約締結のときも来日してからも何も伝えられなかったため、作業がどの程度危険なのか等、何の予備知識もなかった。しかも、会社からは何の説明もなされなかった。

 

 最初に従事したのは、福島県郡山市の市街地(住宅、駐車場、道路など)の除染作業であった(2015年10月~2016年3月まで)。作業内容は汚染された表土を数センチ削ってフレコンパックに移送し、削った場所に汚染されていない土を詰めるというもの。

 この汚染土壌の入れ替え作業の発注元は郡山市。某社が受注し、一次下請けは株式会社エーアイ、C社は二次下請けであった。Aさんはエーアイの指示の下、作業を行った。元請の下に下請が延々と続く重層的な関係の中での就労は、除染作業の特徴である。

こうした関係の中で、現場の放射線測定と管理はエーアイが行ったが、C社では放射線測定の記録などの書類を一切保管していない。本人に対しても、線量結果など通知していない。

 ちなみに、郡山では三菱マテリアルテクノ株式会社が元請けとなる工事にも従事した。C社と三菱マテリアルテクノの間には2社が介在していた。

 

  • 日給5800円。日本人がやれば1万6000円~2万円

給与は月額14万5000円。固定給除染作業に伴う手当てなどは支給されなかった。Aさんは多いときで、月200時間働いた。そこから計算すると、除染作業は時給725円、日給5800円。

 同じ作業を日本人がやるとどのくらいの賃金になるか。C社が以前、ハローワークに出した求人募集内容によれば、1日1万6000円~2万円であった。

 ちなみに、Aさんがいた当時の福島の最低賃金は710円程度。C社は最低賃金より10円程度しか変わらない金額で、危険な作業に従事させていた。

 

  • 避難指示区域内で解体作業

 2016年9月から12月まで福島県川俣町で被災建物の解体工事に従事した。当時、現場は飯館村に隣接、汚染が高く誰も住んでいない、避難指示区域内に位置していた。

解体工事は国(環境省)直轄の事業であったため、外部被爆線量の記録および放射線管理手帳の交付が義務付けられていた。しかし、放射線管理手帳は本人に渡されなかった。

 

  • 危険手当をピンハネされる。危険な作業と気づく

国の事業であったため、作業者には特別作業手当て(危険作業手当て)、1日6600円が支給されることになった。しかし、Aさんは2000円しかもらっていなかった。なぜ、4600円ピンハネしたのか、C社の社長は「危険作業手当て込みで受注しているので、全額を作業員に渡したのでは成り立たない。他の会社もみな状況は同じ」と団体交渉の際答えている。

 そもそも、何も教えられていないAさんはなぜ2000円もらえるのか、わかっていなかった。そこで現場責任者に尋ねた。

 

Aさん「これは何のお金ですか?」

現場責任者「危険手当だよ」

Aさん「なぜ危険手当ですか? 危険な仕事をしているのですか?」

現場責任者「嫌なら、ベトナムへ帰れ」

 

 このやり取りがきっかけで、Aさんは次第に「自分は危険な作業をやらされているのではないか」という疑問を抱くようになった。

 

  • 避難指示解除地区で解体作業

 その後もAさんは、福島県川俣町や飯館村において、次のように被災解体工事に引き続き従事した。同地区では、2017年3月に一部地域の居住制限、避難指示区域の指定が解除された。しかし、解除といっても被爆線量が年間20ミリシーベルト以下になったからという理由であり、決して安全とは言えない。

 

飯館村村営住宅解体工事(2017年1月~3月)

・川俣町被災解体工事(2017年3月~5月)

・川俣町廃材仮置き場細分別作業(2017年5月~8月)

飯館村被災解体工事(2017年9月~10月)

・川俣町山木屋中学校内装解体工事(2017年10月~11月)

飯館村被災解体工事(2017年11月)

 

 2017年1月から3月まで飯館村での村営住宅解体工事に従事したが、このときはまだ避難指示区域に指定されている最中であった。

 

 なお、Aさんは福島県以外に岩手、山形、宮城でも働いたが、就労の大半は福島県内での除染作業、被災建物の解体工事であった。

 

 作業を続けるうちに、強い不安を感じたAさん。いろいろなところから、被爆による健康被害の情報を聞くようになった。Aさんは会社に作業の不安を訴えたが、「嫌なら帰れ」と言われるばかりであった。

ついに、Aさんは寮を脱走、支援者に助けを求め、全統一労働組合につながることができた。

 2017年12月、全統一労組はC社と監理団体に、Aさんの従事した除染作業に関して事実関係を明らかにするよう求め、団体交渉を申し入れた。合わせて、本人に対して、健康診断の記録等を開示するよう求めた。

 なお、健康診断については、Aさんは実習中に受けた診断結果を知らされていなかった。それもあり、別途被爆について調べることにした。2017年12月Aさんは尿検査を実施したところ、幸いなことに放射性セシウムCs 134、Cs137は検出されなかった。ただし「定量化できないがピーク有りと判定」(ごく微量であるが、ピーク時を確認した)と報告された。

 

  • ずさんな管理と規則違反

2018年2月、郡山市で団体交渉が行われた。C社代表は出席したが、監理団体は欠席した。この団体交渉によって、次の問題点が明らかになった。

 

 

 

除染作業に際して教育なし

  除染作業を行う際、会社は除染電離則(東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除去するための業務等に係わる電離放射線障害防止規則)という規則に基づいて、作業員に安全教育を行わなければならない。しかし、C社は何もしなかった。

全統一側が「何も教育しなかったのか?」と問うと、「いや、マスクのつけ方はちゃんとやってます」とC社社長。しかし、日本語でマスクの装着方法を教えたとのことであり、日本語を4か月しか勉強していないAさんはそれすら理解していなかった。

 

 

健康診断の結果を知らせない。記録を保管しない

 除染電離では半年に1度特別健康診断が義務付けられ、結果も本人に通知しなければならないとされている。しかし、C社は健康診断の結果を本人に通知していなかった。診断結果もすべて保管していなかった。また、外部被爆測定記録も保管していなかった。また、川俣町での解体作業では、放射線管理手帳を交付されたが、Aさんは受け取っていない。

 

危険手当6000円のうち4600円をピンハネ

 前述したように、「全額を作業員に渡していたのでは成り立たない。ピンハネしなければ受注できない」とC社代表。

 

  • 「借金してやってきた。子どもが生まれたとき、被爆の影響が心配」

 来日に当たってAさんは、ベトナムの送り出し機関に1万3000ドル(米ドル)支払った。2015年当時の米ドルの平均を120円として計算すると、156万円である。支払った1万3000ドルのうち3000ドルが保証金であり、実習期間を終了しないうちに帰国すると送り出し機関に返済しなければならない。これが前借金となって、ひどい搾取が行われていてもなかなか訴えられないところが、奴隷制と批判される理由である。

 除染作業はもちろんであるが、C社は通常の労務管理もずさんであり、問題を抱えていたようだ。有給休暇を使って病院へ行ったのに、欠勤扱いされ、給料から引かれていたことがあった。それが今回の脱走のきっかけにもなったという。

 一緒に働いていたのはAさん含めて3人。やはり同じ作業に従事させられていた。支援団体によれば、福島県内で働く技能実習生・留学生の中にはAさんと同じように、除染作業に従事している人たちが少なからずいると思われる。

「来日に当たって借金した。しかし、危険な作業とわかっていれば、来日しなかった。危険な作業をやらされているとわかったとき、すごく不安になった。しかし、誰にも相談できず、ストレスになった。2年間ずっと心配しながら仕事をしていた。将来結婚して子どもが生まれたとき、被爆の影響が心配」とAさんは不安を口にする。

 

  • 「除染は大事な作業だからこそ、労働者として受け入れなければならない」

 今回の問題に対して、外国人技能実習生権利ネットワークの鳥居一平氏は次のようにコメントした。

「今回、除染作業に技能実習生を従事させていたことについて、この制度が偽装、まやかしであることがはっきりした。除染作業は明らかな日本国内事情。これをやることが「開発途上国への技術移転」ではないのに、明らかに偽装している。日本で働く外国人労働者のうち、20%が技能実習生、23%が留学生と半数近くが、本来の目的(労働)とは別の立場で受け入れている。人手不足で困っているなら、助けてもらえばいい。いつまでおためごかしをやるつもりか。除染は大事な作業だからこそ、労働者は労働者として受け入れていく政策が必要」

 

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 記者会見に参加した国会議員の中からも質問、意見が寄せられた。立憲民主党逢坂誠二氏は、日経新聞の報道を受けて質問趣意書を提出。①除染作業は技能実習制度の基本趣旨に反している。②除染作業の対象職種は何か。③実習実施機関の不正は処分の対章になるのか、など政府の方針を明らかにすると報告した。

 

 なお、3月14日付けで、「技能実習制度における除染等業務について」(法務省厚生労働省技能実習機構)という通知が出された。

http://www.otit.go.jp/files/user/docs/300314-1.pdf

 

 通知によれば、除染作業は「技能実習の趣旨にはそぐわないものであり、技能実習法施行規則第 10 条第2項第 2号イの基準を満たしていないため、除染等業務を実習内容に含む技能実習計画の認定 申請があった場合には、外国人技能実習機構において認定しないこととしております」と明言している。

 それならば、早急に福島で除染作業に従事させられている実習生たちにこれを伝え、別の職場に異動させるべきだ。一刻も早く!

技能実習生がセクハラ被害諸々を訴える② @水戸地裁

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技能実習生がセクハラと賃金未払いを訴えた裁判を傍聴してきました!

 

「オレはいやらしいことをしていません」

被告は全否定するも…証拠は語る

 

中国人女性技能実習生Aさんが未払い賃金と実習中に受けたセクハラ被害等に対して損害賠償を求めた裁判が、2月23日(金)水戸地裁であった。

 今回は被告である雇用主農家のB親子、受け入れ団体である協同組合つばさの実質代表者D、そしてもう1人の原告Cさんの尋問が行われた。

 Aさんに対してセクハラ行為を行ったとされるBは、「やっていません」と全面的に否定した。

 

*事件の概要は下記の通り。

http://mimikuro.hatenablog.com/entry/2018/02/04/172039

 

 Bは79歳。茨城県行方市で大葉栽培農家を営んでいた。2004年、事業主としての地位は息子に譲り、それ以後は妻と息子を手伝っていた。

 B宅では16~17年前から協同組合つばさを通じて、技能実習生を雇い入れるようになり、常時4~5人の実習生がいた。実習生の多くは女性で、事件当時男性は1人いるだけであった。

 

 裁判当日、Bは息子とともに法廷に現れた。黒いブルゾンとグレーのズボン、スニーカーという姿。普段着でやってきたという感じだった。背はあまり高くない。白髪交じりの短髪、薄くなっている後頭部。

ずっと家族で農業だけをやってきたのだろう。すべてが裁判所という場所には似つかわしくなかった。

 

証言前の宣誓に戸惑う

 

当日の傍聴者は20人あまり。Bは予想していたより人が多いことに緊張が高まったのだろう、証言の前にちょっとしたハプニングがあった。 

 証人は証言の前に宣誓文、「良心に従って真実を述べ、嘘偽りを述べないことを誓います」を読み上げなければならない。難しいことはない。紙を渡されるので、そのまま読めばよい。文字は大きいし、ルビもついている。

しかし、Bはもともと目が悪いのか、緊張のせいか、紙を渡されても一言も発しなかった。1、2分後一言。

「読めねぇ……」

 証言台の前で立ち尽くすB。

 すぐに事務官がBのそばまで行って、丁寧に説明した。

「この紙にはね、本当のことを嘘を言わないでお話をしますと、書いてあります」

 そのように説明されても、固まってしまったB。

「字が見えねぇから……」

 困った裁判長、Bに「意味がわかりますか?」と大声で問う。

 すると、数秒後ゆっくりと言葉を発した。

「…ここに書いてある…嘘をつかないように、全部言います……」

 くぐもった声、強い茨城なまり。

 必ずしも宣誓文どおりではないが、趣旨は理解しているようだと、裁判官は宣誓とみなした。

 

 なお、Bが耳が遠いとの理由で、代理人や裁判官はみな、大声でゆっくりと尋問することになった。



 セクハラなんて「嘘だと思うね」

 

Bは実習生たちから「お父さん」と呼ばれていた。被告側はBについて「女性実習生から親しまれていた」、「実習生が実習を終えて帰国する日は別れが惜しくて大泣きしていた」などと、とても人気があり、トラブルなど一つもなかったことを陳述書で主張した。被告側証人として出廷した元実習生も「お小遣いをくれた」「親切で、必ずお菓子や食べ物をくれた」と証言している。

 

さて、その「お父さん」は代理人からセクハラ行為をやったか1つ1つ尋ねられると、すべて「やっていません」とはっきりとした口調で否定した。

これがBがやったとされるセクハラ行為である。

 

 

原告Aさんに対して

・働き始めた初日「あなたはきれいだ。結婚してくれ。私でなければ息子と結婚してくれ」と言った。

・「きれいだね」「お風呂に一緒に入ろう」と何度も言った。

・手で胸やお尻を触った。

・スカートを下にひっぱられた。

・シャワーを浴びているとき、ドアの外から「一緒に浴びよう」と言った。怖くて外に出られなかった。

・休日寝坊しているとき、Bが部屋に入ってきてAさんのベッドの横に立っていた。怖くて、しばらく寝たふりをしていた。

・ビニールハウスを修理しているとき、Bが背後にやってきてお尻を触られた。驚いてAさんが振り向くと、BはAさんの胸に口をつけた。

 

他の実習生に対して

・実習生たちの前で性器を露出して歩き回った。

・「○○は胸が小さい」などと話していた。

・実習生の胸やスカートの下から懐中電灯を当てた。

・メロンを包む網を実習生の胸や、自分の股間にズボンの上から当てた。

 

 

 セクハラをしていない理由は次の通り。

 仕事は妻と一緒であり、妻と不仲ではない。

 女性の実習生たちが住む女子寮へは入ったことはあった。それは、電気やガス、水道の修理のため、実習生の誕生日パーティに夫婦そろって呼ばれたときで、年に数回ぐらいしかない。

 もっとも前立腺に持病があるため頻尿となり、農作業中に立ち小便をすることはあった。しかし、必ず建物の陰に隠れてしていたし、実習生たちの前でやったことはない。

 しかも、事件が起こった当時は大幅に体調を崩していた。動悸、めまい、食欲不振、血尿が出ている状態であった。自宅で倒れ、救急車で運ばれて入院までしている。そんな健康状態で、とてもセクハラができるような状態ではなかった。

 

また、Bは夜実習生にやらせていた大葉を巻く作業についても、自分が監督していたことはないと証言した。自分は引退している立場なので、夜は7時ごろに寝てしまう。だから、実習生たちに「早くしろ、早くしないと中国へ返すぞ」などと言ったことはないと、Aさんの主張を否定した。

 

 主尋問の終盤、代理人から、「Aはあなたからひどいセクハラを何度も受けたと話していますが」と問われると、即座に「それは嘘だと思うね。触ったり、私は絶対やりません」と言いきった。

 そして最後にこう言って主尋問を終えた。

「オレは絶対にいやらしいことをやりません。20年間実習生を使ってきて、1つもこんなことはありません」。


 「やっていない」と主張はしたものの…


 「(セクハラは)嘘だと思うね」「いやらしいことはやりません」と言いきったB。では、Bにとって「セクハラ」「いやらしいこと」とはどこまでの行為をさすのか、反対尋問では原告側代理人の指宿昭一弁護士が尋ねた。

 

B「体触ったり…」「胸やけつ触ったり…」

指宿弁護士「肩を組むのはセクハラですか?」

B「触っていない」

指宿弁護士「肩を触るのはセクハラと思いますか?」

B「思います」

 

 この証言の後に、実習生たちを連れて旅行に行ったとき、写した写真を見せた。

 

指宿弁護士「隣の○○さんと肩を組んでますよね。手が見えます」

 B「いや、触っていない」

 指宿弁護士「あなたの手では?」

 B「わかりません」

 指宿弁護士「こちらは腕を組んでいますよね」

 B「中国人のほうから寄ってきた」

 

 ことごとく否定したものの、焦ったのか、非常に苦しそうだった。

 ちなみに、Bは実習生の肩を触ったことがないと証言したが、被告側の元実習生は「Bは私たちを激励するとき、肩を叩いた」と証言している。同様に元実習生は「私たちから腕を組むこともある」と証言しているのだから、無理に否定する必要はなかった。

 

 さらにこんなやり取りもなされた。

 指宿弁護士「あなたは実習生のことを『女の子』と呼んでいましたか?」

 B「いや、名前を呼んでいました」

 指宿弁護士「あなたは陳述書で『女の子を預かっている』と書いていますよ」

 B「……」

 指宿弁護士「陳述書の内容をよく確認してからサインしましたか?」

 B「…わからない…」

 

 ちなみに、裁判所に証拠として提出する陳述書は自分で書く人もいれば、代理人弁護士に書いてもらう人もいる。代理人が書く場合、出来上がった陳述書を読んで内容を確認して、事実と違っていれば訂正してもらってから署名、捺印する。Bの陳述書を私も読んでみたが、これはおそらく代理人が書いたものだろう。 



 見え隠れする差別意識


 

 実習生にはお小遣いをあげたり旅行に連れて行ったり、家族のようにかわいがり、気前よくふるまう「お父さん」。しかし、その発言には差別意識が見え隠れしていたように思えた。

 1つは、技能実習生を「使う」という表現。

主尋問の最後では「20年間実習生を使ってきて、1つもこんなことはありません!」。また、男性の実習生について問われたとき、「(自分の)体の調子が悪くなったので、男を使いましょうということで雇いました」と証言している。主従関係を前提とした、相手を機械かモノとみなしているように感じた。これを聞いたとき、実習生は雇用主にとって労働力以外の何物でもないことがわかった。

 2つ目は、女性実習生に対する「女の子」という呼び方。

 最後は、実習生と腕を組んだ写真を見せられたとき、「中国人のほうから寄ってきた」という証言。

 この場合、答えるとしたら、実際に写真に写っている実習生の名前だし、忘れてしまったなら「実習生」あるいは「隣にいる人」とか、他に言い方はあるだろう。それを「中国人」という民族名、属性で呼ぶ。日本人との区別が必要な状況ではないのに。

 非常にうがった見方かもしれないが、「お父さん」は実習生のことを自分たち日本人とはまったく違う、中国の貧しい農村から出稼ぎにやってきた哀れな外国人という意識をずっと持っていたのではないか? 女性実習生はあくまでも「中国人の女の子」。哀れみの対象だから、お小遣いをあげる。お互い対等な人間同士という考えはなかったと思える。

 

 ここで思い出した映画があった。「オキュパイ・シャンティ~インドカレー店物語」。インドカレー店で働くインド人たちが、業績悪化を理由に解雇を通告される。しかも賃金は2年も支払われていなかった。

そこで登場したのが、今回の裁判でも代理人を務めている指宿弁護士。インド人たちは指宿弁護士ほか支援者のアドバイスで、労働組合を結成して解決に当たるという内容である。

映画の中で解雇を通告した日本人の社長はインド人の従業員について、こんなふうに語る。

「私はいつも彼らのことを心配して、家族同然に付き合ってきました」

しかし、当の従業員たちは「社長からはいつも、インド人、バカ、ゴミって言われていた」。

 これが実態だ。

 労働現場に持ち込まれる「家族」という言葉は、搾取構造を見えなくさせる。

 

*「オキュパイ・シャンティ~インドカレー店物語」

http://vpress.la.coocan.jp/shanti.html

 

牛久で出会った外国人─マロン(28歳・フィリピン)

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■今からでも遅くない、うんこドリルで漢字を覚えようよ 

*昨年FBにアップした投稿ですが、こちらに移しました。

 

昨日(19日 )、牛久の入国管理センターを訪問、収容されている外国人と面会。ここにいるのは国外退去処分を受けている外国人たちだ。

この国は弱者にとって、とてつもなく過酷な場所であることを思い知らされた一日だった。もちろん、アベが総理になるはるか以前から。

 

 フィリピン人の28歳の青年マロンはマニラで生まれ、13歳のとき母親の再婚によって来日した。彼を生んでまもなく母親は日本へ渡り、日本人の男性との間に3人の子どもを産む。彼がマニラから呼び寄せられたのは、母親が男性と入籍し、とりあえずは家族として一緒に住む態勢が整ったからだろう。

 再婚相手の仕事は解体業、母親は夜スナックで働いていた。

  日本にやってきた彼は、当然のことながら言葉もわからず、友達もいない。学校には行かず、幼い弟3人の面倒を見なければならなかった。父は朝から仕事、母は夜遅く帰ってくるせいか、昼間は寝ている。弟たちのオムツを代えたり、ミルクをつくったり、遊んであげたり、時には母の代わりに家事をしながら、3年余りを過ごす。

 15歳になったとき、地元の外国人向けの無料の日本語教室に1年間通って、言葉を覚えた。そして、父親の解体業を手伝うようになったが、長くは続かなかった。同年代の不良仲間とつるむようになり、少年院へ。2年後に出所した。

 日本の義務教育を終えていない少年院上がり。しかも、日本語も不十分。これでは、まともな職にありつけるはずがない。おそらく母親のつてだろうが、フィリピンパブの呼び込みをやることになった。こうして数年は呼び込みをやったが、店は閉店することになり、無職になってしまった。

  当時付き合っている女性がいて、彼女との間には子どももいた。赤ちゃんのミルク代も事欠く中、周囲に借金を申し込む。友人の1人から借りたお金が命取りになった。友人は盗んだ車を売った金を彼に渡したのだ。お金の出所については「リサイクルする車を売ったんだ」とウソをついて。

  友人が逮捕されると、捜査は彼にも及んだ。「知らない」と主張しても、警察が聞くはずもない。彼は友人と共謀して窃盗を働いたことになり、逮捕、起訴され有罪になり、3年間服役。出所後、国外退去処分となり、入国管理センターに収用されたのだった。

  彼は13歳から28歳まで日本で暮らし、フィリピンへは一度も帰っていない。すでに言葉も忘れてしまったし、生活習慣もわからない。今さら、フィリピンへ帰れといわれても、どうやって暮らしていけばいいのか。まともに生活できる見込みはまったくない。

 

 「日本に来たとき、本当にさびしかった。言葉もわからないし、友達もいなかった」

いやいやながらもたまには勉強して、友達と冗談ばかり言い合って、アイドルに夢中になる。そんな、ごく当たり前の子どもとしての生活は奪われた。家庭ではネグレクト状態に置かれ、言葉も覚えられなかった。親に甘えたい年頃なのに、大人の役割を担わされたアダルトチルドレン。明らかな虐待環境にあったのに、誰も彼を助けられなかった。

 

 彼が越してきたとき、地元の自治体から家庭へ働きかけがあったのか。

もし、彼が学校に通っていないことを自治体が把握していたら、何か手を打てたのではないかと思う。

 

 家庭という密室に閉じ込められ、生きるために必要な力がないまま、突然社会に放り出される。そして、今度は「邪魔だ、出て行け」とばかりに日本から追い出されようとしている。

 

 それでも、人って簡単に壊れないのだと思う。

  服役中に母親は死亡、母親の再婚相手や弟3人とは連絡を取っていない。しかし、恋人と2人の子どもとは月に1度面会にやってくるし、電話で話すのが楽しみだという。

  弁護士も探すことができたので、国外退去処分取り消しの裁判を起こすことになった。

 「彼女と子どものために、がんばりたい。もう悪いことはしない」

 たどたどしい日本語だけど、しっかりと語る。

 

 これが日本だ。

 だけど、冷酷な仕打ちに怒り、一緒に涙を流す人間はたくさんいるよ。

  裁判、がんばろう。

  今度こそ、人生やり直そう。

*その後、彼と何回か面会し、日本語は平仮名、カタカナは読めるが、漢字は小学校3年生程度しか習っていなかったのことがわかりました。やはり漢字は難しいとのこと。でも、1つ1つ意味があるので、それと一緒に覚えたと語っていました。というわけで、あのうんこドリルを差し入れてきました。覚えてくれればいいな。

 


 

技能実習生がセクハラ被害諸々を訴える① @水戸地裁

f:id:mimikuro:20180204194039j:plain技能実習生がセクハラ被害等を訴えた裁判を傍聴してきました!

 中国人技能実習生が未払い賃金の支払いと、実習中に受けたセクハラ被害等に対して損害賠償を求めた裁判が、1月26日(金)水戸地裁であった。
訴えられたのは、雇用先である農家(父親と息子)、そして受け入れ団体の協同組合つばさ。この日は原告である中国人女性Aさんの本人尋問と、被告側証人の証人尋問が行われた。

 Aさん(30代女性)は2013年9月13日に技能実習生として来日し、同年10月16日から茨城県守谷市の大葉栽培農家で働き始めた。その直後から父親Bからセクハラを受け続け、被害を協同組合つばさへ訴えたが聞いてもらえなかった。さらに、Aさんは別の場所に移動させられ、2015年1月18日から仕事を与えられなかった。実習期間は3年であったが、わずか1年3か月しか働くことができなかった。その後、Aさんは在留期間が満了したため、中国へ帰国しなければならなかった。
 幸いなことに、帰国前に技能実習生の支援に携わっていた支援者につながり、メディアの報道が相次いだことから、提訴に至ったという。
 今回の裁判のために、Aさんははるばる中国から水戸までやってきて、自ら受けた被害を訴えた。
 今回は原告、証人とも中国人であったため、尋問は中国語で通訳を介して行われた。

●「早くしろ! 早くしないと中国へ帰すぞ!」 
 朝8時~午後4時まで大場摘み。午後5時から大場を巻く。これがAさんの労働内容である。休憩は午前中15分、昼休み1時間。大場摘みが終わった午後4時から5時までの間に、夕食やシャワーを済ませなければならない。5時からは、昼間摘み取った大場すべてを出荷用に束ねる。10枚を1束にまとめ輪ゴムで巻く。すべて巻き終えて作業は終了となる。作業は深夜に及ぶこともあり、いくら眠くても作業を中断することは許されなかった。
 契約では、勤務時間は午前8時から午後5時まで(労働時間7時間)。時給713円で、残業や休日の場合は、時給に加え25%以上割り増しした賃金を払わなければならない。しかし、契約とは異なり、午後5時以後の大葉巻きは残業になるべきところ、時給ではなく1束2円で計算された。今回支払いを求めた未払い金は、主に大場巻きにかかわるものであった。
 農家にはAさんのほかに、4~5人の中国人技能実習生がいた。セクハラを行ったBは雇用主の父親であったが、Aさんたち実習生に具体的な仕事の指示をした。Bは大葉巻きの作業のとき、Aさんたちのいる仕事部屋へ頻繁にやってきて「早くしろ、早くしないと、中国へ帰すぞ!」と言っていた。
 つまりBが「こいつは作業が遅い。真面目にやっていない」と協同組合へ訴えれば、いつでも途中で帰国させられてしまう立場にあった。

●悪質なセクハラの数々。それでも我慢
 Bがセクハラの常習犯であることは有名であり、Aさんは実習に入る前に協同組合の職員から、「これから行く農家の人(*Bのこと)は色気が強い人。お尻を触ったり、手を触ったりすることがあるが、我慢するように」と言われていた。
 案の定、Aさんが実習を始めた当日、BはAさんに対して、「あなたはきれいです。私と結婚してくれ。私でなければ、息子と結婚してくれ」と言ってきた。Aさんは「結婚」という単語だけは意味がわかったが、その他の言葉が理解できなかった。一緒にいた協同組合の人間が通訳してくれて、初めて内容を理解した。
 Bによる執拗なセクハラが始まった。「きれいだね」「お風呂に一緒に入ろう」と言葉で言うのはしょっちゅう。手で胸やお尻を触る。実習生の前で性器を露出して歩き回ったこともあった。他の実習生のいる前でAさんのスカートを下にひっぱられたときは、そばにいた別の実習生がBを制止した。
 シャワーを浴びているとき、ドアの外から「一緒に浴びよう」と言われたこともあった。このときは怖くてなかなか外に出られなかった。4時に大葉摘みを終え、5時から大葉巻きを始めるまでの貴重な1時間であった。
 仕事のない日曜日寝坊していると、Bが部屋に入ってきてAさんのベッドの前に立っていたこともあった。このときも怖くて、Aさんはしばらく寝たふりをしていた。
Aさんがビニールハウスを修理しているとき、Bが背後にやってきてお尻を触られた。驚いてAさんが振り向くと、BはAさんの胸に口をつけた。
 Bは他の女性実習生に対してもセクハラを行った。「○○は胸が小さい」などと評するのはまだいいほう。胸やスカートの下から懐中電灯を当てる。メロンを包む網を実習生の胸や、自分の股間にズボンの上から当てたりした。
 セクハラを受けるたびにAさんは気持ちが悪く、なぜこんなことをされなければならないのか、悲しくなった。やがて、Bに恐怖心を抱くようになり、夜は安心して眠ることができず、寝ても悪夢を見た。しかし、それでも我慢した。

●問題を起こせば中国へ強制帰国
 我慢した理由を陳述書では次のように述べている。
「私たち技能実習生は、来日前に、中国の送り出し機関に対して、多額の保証金を支払い、連帯保証人も設定され、3年間の途中で帰国した場合には、保証金は返金されず、連帯保証人にも損害賠償請求がなされると説明を受けていたからです。また、技能実習生が、労働条件や職場環境に対する不満を訴えるなどして問題を起こした場合には、技能実習を途中で終えなければならないと聞かされていました」
 お金を稼いでいないうちに帰国させられたら、多額の借金が残る上、訴えられる危険もある。「何があっても我慢して、勤め上げなければならない」と考えるのが普通だろう。
 しかし、その後もBのセクハラはエスカレートし、他の実習生が服の上から性器を触られる被害を受けた。そこで、協同組合の職員Cさんにセクハラの事実を訴えた。
 Cさんは当初Aさんの訴えを聞きつつも、「ここで問題を起こすと帰国させられてしまうから、我慢して」と言っていたが、Aさんが何度も訴えたことから、協同組合に報告してきちんと対応してもらうことを約束した。
 ちなみに、Cさんは今回の裁判の原告となっている。Cさんは実習生たちの味方になり、協同組合に訴えるなどして活動していた。しかし、協同組合側はCさんの訴えを聞こうとはしなかった。それでもあきらめないCさんを協同組合は邪魔に思ったのか、実習生の担当からはずしてしまった。最終的にCさんは解雇されることになる。

●協同組合の職員が押しかけて脅迫。警察を呼ぶ
 協同組合にとってAさんは厄介な存在になっていた。
 ある日職員がAさんのところへやってきて、一緒に来るように命じた。ここを離れてしまえば、協同組合に留め置かれて長期間仕事ができなくなるか、そのまま中国へ帰国させられてしまうことを、技能実習の先輩たちから聞いていたため、Aさんは強く拒否した。
 代表Dがやってきて、和解を持ちかけてきたこともあった。内容は「大葉巻きの残業代とセクハラについて30万円払う」というものであった。
 Dは「この問題で組合がつぶれるようなことがあったら、人を雇ってAを殺す」とCさんに語っていた。
 申し出に対してAさんは拒否した。残業時間を毎日記録していたAさんは、30万円を優に越えていることがわかっていた。それに「30万円でセクハラをなかったことにしようとする。それは事実ではない」からであった。
 それから数日後、突然協同組合と中国の送り出し機関の日本駐在所の職員がB宅へやってきた。他の実習生たちもセクハラ被害を訴えはじめたため、技能実習生全員を協同組合へ連れ出そうとしていた。
 職員は勝手に部屋にやってきて、「お前らを帰らせるのは容易いことなんだよ!」と怒鳴った。実習生のうち2人は職員に従ったが、Aさんを含めて4人は同行を拒んだ。
 しかし、職員たちはあきらめず、午後11時頃まで部屋の外から何度もドアを叩かれたり、大声を上げられるなどして、協同組合まで来るように迫った。
 B宅の様子がおかしいことに気づいた近くの農家で働いていた実習生が、Cさんに連絡し、Cさんは警察に通報。警察はすぐにB宅へ駆けつけたが、職員たちは引き上げていった後だった。
 その翌日、翌々日も協同組合の職員たちはB宅を訪れ、Aさんたちを連れて行こうと脅迫した。
 和解に応じなかったAさんは、ほどなく別の農家で働くことになった。そこでさらに前回より2倍の「67万円を支払うから」と和解案を持ちかけられたが、Aさんは拒否。すると、協同組合はAさんを水戸市のアパートに連れて行き、以後仕事をすることができなくなってしまった。

●「セクハラを思い出すのはつらかった。でも、私は法律を信じている」
 今回Aさんの主尋問を担当したのは女性の弁護士2人で、残業については加藤桂子弁護士、セクハラについては谷村明子弁護士が担当した。
Aさんの家族は、彼女が証言することを望んでいなかったが、家族の反対を押し切って来日した。
 Aさんはかぼそい声ながら、質問に対して記憶に忠実に証言した。反対尋問でセクハラに関して意地悪で、明らかに言いがかりとしか思えない質問がなされたが、わからないことはわからないとはっきり応え、冷静に対応した。
 つらいことは他にもあった。一緒に働いていた技能実習生たちは、協同組合の工作によって組合側についたのだ。「セクハラはなかった」「大葉巻きはやってもやらなくても自由」「Aさんは残業をせずに遊んでいた」という内容の陳述書を提出し、Aさんの前に2人の証人が証言したのだ。同じようにセクハラで苦しんいでた仲間から裏切られ、自分を貶める言葉を聞いていなければならない…本当によく耐えたと思う。
 セクハラについて尋問を始める前、谷村弁護士はAさんにこんな言葉をかけた。「あなたは裁判前の打ち合わせで、セクハラについては思い出したくないと語っていましたね。つらいけど、がんばって話してください」。
 傍聴席で聞いていても心温まる瞬間だった。最後にAさんはわざわざ中国からやってきた理由を次のように証言した。
「Bの行為が耐えがたかった。協同組合は契約どおりに私の給料を払ってくれなかった。でも、法律は正義の味方。これから実習生は正しい待遇を受けないといけない。私は法律を信じている」

 次回は2月23日(金)。もう一人の原告Cさんと、被告の雇用先の農家のBと息子、協同組合代表Dの尋問が行われる。